2016.09.01更新

「相続が「争族」となるのを防ぐためには,遺言を遺しておくことが有用です。」とよく聞くと思います。実際,遺言作成がなされていないために,相続人間で争いが生じ,長期の遺産分割調停になってしまうケースも多くあります。

では,どのようにして遺言を作成すればいいのでしょうか。遺言には,自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言の3つの種類がありますが,秘密証書遺言は,自筆証書遺言と公正証書遺言の中間のものであり,これを作成するのであれば公正証書遺言を作成するケースが多いため,一般的には作成されていません。そこで,自筆証書遺言,公正証書遺言のどちらを作成したほうがいいのでしょう。

一般的には,公正証書遺言は,公証役場で公証人に作成してもらう遺言であり,完成した遺言も公証役場に保管されますので,遺言が紛失する可能性もなく,内容にも真実性がありますので,優れているといえます。一方で,公正証書遺言は,証人2人が必要であったり,原則として公証役場に足を運ばなければならない等,自筆証書遺言と比べるとハードルが高く,そのために遺言作成自体を躊躇してしまう場合もあるかもしれません。

遺言がないために,相続人間でトラブルが発生してしまうケースは,近年非常に多くなっています。しかし,遺言は,被相続人が自分の死後に,遺産相続に関する指示を残せる最後の意思表示であり,遺産分割方法の指定や相続人同士のトラブル防止,自分の遺産を自由に扱う旨などを明記できるものですから,作成にハードルが高いという理由で作成しないのでは,遺言作成のメリットが損なわれてしまいます。

「争続」を確実に防ぐという意味では,内容の真実性に問題が生じない公正証書遺言を残すほうが確実とはいえますが,作成に躊躇するのでは,ご自身の最後の気持ちを残された家族に伝えることはできませんし,お気持ちを添えた遺言書を遺すだけで「争族」となることを回避できることもあります。そのため,まずは,自筆証書遺言を作成してみてはいかがでしょうか。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.08.30更新

現在議論されている相続法改正の中で,配偶者の居住権保護とは別に,配偶者保護の観点から改正しようとしている点が配偶者の法定相続分です。通常,婚姻期間が長ければ,夫の財産は夫婦で協力して作り上げた夫婦共同財産であり,妻の法定相続分が1/2では夫婦共同財産の自分の分を取り戻したに過ぎず,配偶者の貢献が考慮されてないという問題点から,改正が議論されています。

改正案では,配偶者の貢献度合いを計算して法定相続分を決定する等の改正案が出ていますが,「貢献度」というあいまいなものを計算することから,遺産分割が複雑化してしまい,相続人間でトラブルが生じるリスクが高まる可能性もあります。

相続法改正の議論は,現在進行形で議論されているものであり,今後改正案が変更することも大いに考えられますので,今後の議論には注目していく必要があります。

しかし,問題点となっている残された配偶者の生活の保護という観点は,現在でも問題となり得るものです。相続法改正前の現段階においても,残された配偶者の生活が相続によって大きく変わらないために,生前に遺言を作成しておくことがより必要となっていくものと考えられます。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.08.25更新

現在議論されている相続法改正の主な項目として,配偶者の居住権の保護があります。

配偶者の一方が死亡した場合,他方の配偶者はそれまで居住してきた住居に引き続き居住することを希望する場合が多いと思います。しかし,相続財産が自宅不動産のみである場合,配偶者以外の相続人が自宅不動産を売却して売却代金を相続分とおりに分配しようと主張してしまった場合,残された配偶者が一定の金銭を支払って代償分割することができれば問題ありませんが,支払う金銭がない場合は,今後自宅に住み続けることができなくなってしまいます。また,遺産分割で配偶者が自宅不動産の所有権を取得する場合,自宅不動産の評価額が高額となるため,今後の生活費となる預金等の相続財産を取得できなくなり,その後の生活に支障が生じる可能性もあります。

上記のように,高齢の配偶者が自宅に住めなくなってしまう可能性に備え,配偶者の短期的な居住権と長期的な居住権を保護しようという改正案が出ています。

短期居住権とは,被相続人が亡くなってから遺産分割が終了するまでの短期間居住する権利のことであり,改正法では,配偶者に無条件に認めることとされています。

もう一つの長期居住権とは,遺産分割終了後も長期にわたって住み続ける権利のことであり,遺言若しくは遺産分割協議で合意があった場合は,遺産分割によって自宅不動産が他の相続人の所有になったとしても,配偶者に長期居住権を認め,この長期居住権を金銭的価値に換算して,配偶者の相続分から控除する等の取扱いを行うこととなっています。

配偶者と子供とが相続人であって,自宅不動産と預金のみが相続財産の場合,今後も自宅に住み続けたいと考える配偶者に全ての財産をのこすための遺産分割を行う場合が多いと思いますが,後妻と前妻の子供等の関係の場合は上記の問題が生じる可能性がないとはいえないかも知れません。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.08.23更新

昭和55年に配偶者の法定相続分が3分の1から2分の1に変更される改正の後,民法の相続法に関しては改正がないまま現在に至りました。

しかし,平成25年9月4日,非嫡出子の相続分を2分の1とする民法900条4項但書が憲法違反との最高裁大法廷違憲決定が下され,これを受けて平成25年12月5日に民法900条4項但書を削除する内容の民法改正が行われたことを契機にして,平成26年から現在まで相続法改正が議論されています。

現在議論されている相続法改正の主な項目としては,①配偶者の居住権の保護,②配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現,③寄与分の見直し,④遺留分の見直し,⑤遺言の見直し等多岐にわたります。

特に,医療の発達により平均寿命が延びていく中,被相続人もその配偶者も高齢化が進んでいることから,被相続人の配偶者の生活を保護しようという議論が進められています。

上記に紹介した相続法改正の議論は,現在進行形で議論されているものであり,今後改正案が変更することも大いに考えられますので,今後の議論には注目していく必要があります。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.08.11更新

賃貸不動産の購入は,上記のとおり,相続財産の評価額を下げることができるので,納めなくてはならない相続税を低く抑えるという意味では,遺された家族が相続税の支払いに困らなくても済む,というメリットがあります。

しかし,節税対策として,1棟の賃貸不動産を購入した場合や,所有している不動産にアパートを建築した場合などでは,相続財産の中で当該賃貸不動産が大きな割合を占めることになります。このように他に分けられる財産がない場合は問題となります。

相続手続では,被相続人が亡くなった後に,複数の相続人間で遺産分割協議を経て,遺産分割協議書を作成し,それぞれの相続人に帰属した財産の評価額に応じた相続税を納めることになりますが,相続財産のうち,大きな割合を占めるものが賃貸不動産だったとすれば,相続人間で分けることができず,遺産分割協議において相続人間の共有として協議書を作成せざるを得ません。

複数の相続人の共有となった場合,一人の相続人が売却を希望したとしても,共有不動産の売却には共有者全員の同意が必要となりますので,他の相続人の同意が必要となり,相続人全員の足並みがそろわない場合は売却できません。各相続人それぞれの持分の範囲であれば,他の共有者や第三者に売却はできます。しかし,不動産の持分のみを購入する第三者は通常いませんし,いたとしても売却等が出来ない共有不動産であることを分かったうえで購入するため,高値で売却することは困難です。

また,相続人間で売却せずに共有していくことで合意が得られたとしても,賃貸不動産の大規模な改修や建替えが必要となった場合も共有者全員の同意が必要となりますので,共有者全員の同意を得られずに改修ができない可能性もあります。この場合,賃貸不動産の価値が下がってしまうリスクも存在します。

そして,共有者の一人が亡くなった場合は,亡くなった共有者の持分は,その相続人である配偶者・子供に相続されます。このような次の世代への相続が発生した場合,共有者が増えてしまって,権利関係が複雑化してしまうリスクも生じます。

このように,相続は,相続税の対策を行うことだけでは足りず,遺産分割協議を想定しておかなければ,相続が「争族」になってしまうリスクが発生してしまいます。

しかし,実際,預貯金等と比べ,賃貸不動産を所有することは,大きな節税効果があることは確かです。そのためには,遺された家族の間で無用な「争族」が生じないために,相続税対策のみを目的とした賃貸不動産購入だけでなく,遺産分割協議を見据えて,資産を分散させるために複数の賃貸不動産を購入しておく等,遺された家族に争いが生じないための対策も必要となります。こうした対策をもって初めて賃貸不動産購入という節税効果が最大限に発揮されるのです。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.08.09更新

平成27年1月1日に相続税法の改正が行われ,相続税の基礎控除が減少したことに伴い,相続税を納税する必要性が拡大しました。そのため,生前贈与や相続税に関する対策を考えられている方が増えています。そこで,賃貸不動産を購入すると相続税が安くなるので相続税対策に効果的だという話を聞いたことがある方も増えていると思います。

これは,相続税の算定方法が預貯金や株式等と不動産とでは異なるためです。

預貯金や株式等を相続する場合は,その時価を基準に相続税を算定することになりますが,不動産を相続する場合は,その不動産の時価を基準として相続税を算定するのではなく,土地であれば路線価といわれる,路線(道路)に面する標準的な土地1平方メートル当たりの価格をもとに評価し(一部では,固定資産評価額の倍率方式で評価する地域もあります。),建物であれば固定資産評価額をもとに評価して,相続税が算定されます。しかも,その土地・建物を第三者に貸して,賃貸不動産として保有している場合は,さらに評価額が下がることになりますので,相続税対策としては有効です。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.07.21更新

預貯金を他の財産と合せて遺産分割の対象とできるかどうかが争われた審判の許可抗告審において、最高裁第1小法廷は平成28年3月23日に審理を大法廷に回付しました。最高裁判所の大法廷は,小法廷で審理した事件の中で,法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するか否かという憲法判断や判例が変更される場合にのみ開かれる法廷ですので,大法廷に回付された以上,預金債権は相続開始と共に当然に可分され,各相続人が相続分に応じて預金債権を承継するという判例が変更されると考えられます。

この判例変更がなされると,今後大きく変わるのが金融機関の対応です。

現在,相続人が亡くなって相続が開始されると,金融機関の口座は凍結されてしまい,各相続人が相続分の払戻し請求を行っても,金融機関は払戻しには応じません。しかし,上記のとおり,預金債権は相続開始と共に当然に可分されるのですから,判例と金融機関との運用が異なります。

例えば,夫が亡くなり,妻と子供2人の相続人が遺され,相続財産として1000万円の預金があったとします。この場合,現在の判例によれば,遺産分割を行わなかったとしても,妻には法定相続分1/2の500万円,子供たちにはそれぞれ法定相続分の1/4の250万円の預金の払戻し請求権が認められ,金融機関に払い戻ししてもらうことができるようになります。しかし,金融機関としては,一人の子供の請求に応じて相続分である250万円の支払を行った後,別の相続人である妻から,遺産分割協議の結果,預貯金は全て妻が相続することになったので,1000万円の払戻しをしてほしい,と請求してくる可能性も否定できません。すでに一人の子供に250万円支払ってしまっていた場合は,準占有者弁済として金融機関が免責されるケースは多いと思われますが,金融機関に免責が認められるためには、法律上、金融機関が善意無過失であることが要件となっているため、金融機関が善意無過失であると認められない場合には,すでに250万円の支払いを行ったとしても,妻に対して1000万円支払わなければならず,二重払いとなるリスクが生じてきます。

このようなリスクを回避するために,金融機関としては,相続財産である預貯金の払戻しをする際には,原則として相続人全員の同意を得たうえで預金の払戻しに応じるという運用がなされているのです。

今後,判例が変更された場合,遺産分割が終了するまで預金の払い戻しができないとするかどうかについては,現在見解が分かれています。預金の払い戻しが一切できない場合は,総日費用の支出などで相続人の便宜に沿わない可能性がが生じてしまいますので,判例変更後の金融機関の運用には注意が必要となります。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.07.19更新

相続財産の典型的なもののひとつとして被相続人の預貯金があります。
この預貯金は,金融機関が管理保管している被相続人の金銭のことであり,法的には、被相続人の金銭を預けている各金融機関に対して、その預貯金の払い戻しを請求できる権利であり,現金とは区別した取り扱いがなされることになっています。

通常,相続が開始されると、相続財産は遺産分割によって各共同相続人の具体的な相続分が決まるまでの間は、各相続人の法定相続分に応じて共有とされるのが原則です。そのため,預貯金も相続財産の一つですから,相続人の共有となるかとも思われます。

しかし,現在の判例では,預貯金は、預金者に相続が生じた場合、相続の開始によって法律上当然にその債権が分割され、各相続人が相続分に応じて預金債権を承継すると考えられています。そのため,相続が生じた場合は,各相続人は,記入機関に対して各自の相続分に応じて預金の払戻しを請求することができると考えられているのです。

そのため,預貯金は,遺産分割の対象となる相続財産には含まれない,と考えられています。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.07.14更新

相続財産が実家の不動産のみである場合であり,不動産の評価が問題となるケースが多くなっています。

兄弟そろって,売却後,その売却代金を案分することで合意できればいいのですが,片方の兄弟が親と同居していた場合は,親の死後も,当該不動産に住み続けることを希望するでしょう。この場合,住み続けたい片方の兄弟と,不動産はいらないので相続分の現金がほしい片方の兄弟との間で対立が生じてしまうケースが多くみられます。
不動産は,共同相続することもできますが,兄弟それぞれが家庭を持っている場合,2家族が同居することは困難なため,実際は,兄弟のどちらかが相続し,相続しない方は相続分に相当する金銭を受け取るという,代償分割を行う場合が多くなります。

不動産の価格を決めるためには,路線価,実際の売買価格(実勢価格),固定資産評価額,地価公示・地価調査の4つの基準が用いられます。その不動産にもよりますが,一般的には,路線価や固定資産評価額は、不動産売買価格(実勢価格)と比較して低くなりますので、路線価を基準として算定した場合や固定資産税を基準として算定した場合と実勢価格を基準にして算定した場合とでは、代償分割において支払われる金銭の額も大きく異なります。
そのため,代償分割とするとしても,様々な基準での不動産の評価額が存在しますので,当該不動産ををどのように算定するかで争いとなる場合が非常に多くなっています。

このように,相続争いは,財産があるなしにかかわらず生じてしまう可能性が高いものですので,生前に遺言を作成しておく等の相続対策を行っておくことが兄弟間の争いを避けるためには有効となります。また,上記のケースのような不動産の評価が問題となるケースは,評価方法の違いで大きく金額が異なることになりますので,弁護士等の専門家に相談してみることで自身に有利に解決できる場合もあります。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.05.19更新

今回紹介したケースでは,3000万円のマンション購入資金について特別受益に該当し,かつ持戻免除の意思表示がないことを前提に,次男の相続分がないケースをご紹介しました。
しかし,生前贈与については,贈与者が持ち戻し計算をしなくてよいという意思表示,持戻免除の意思表示をすることが考えられ,この持戻免除の意思表示は有効です。そして,この持戻免除の意思表示は,明確に示されていない場合であってもその意思表示があったと認定され得るため,黙示の持戻免除の意思表示の有無をめぐり争いが生じることがしばしばあります。例えば,本件において,3000万円を次男に生前贈与したけれども,これは昔父親が病気を患ったときに数年間,同居して面倒を見てあげた代わりに贈与してもらったのだから,父としては,贈与した3000万円は相続の時には考慮しない趣旨で贈与したとして,次男が持戻免除の意思表示があったかどうかを争う可能性もあります。

上記のようなケースにおいて,相続時に争いが生じないためには,やはり贈与者が,どのような意図で生前贈与したのかを遺言等で遺しておくことが有益でしょう。父が,生前,マンションの購入資金として贈与した3000万円について,持戻免除の意思があるかどうかを遺言にはっきり記載しておけば,将来,相続人の間での争いを防ぐことができたと考えられます。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

前へ