2016.08.25更新

現在議論されている相続法改正の主な項目として,配偶者の居住権の保護があります。

配偶者の一方が死亡した場合,他方の配偶者はそれまで居住してきた住居に引き続き居住することを希望する場合が多いと思います。しかし,相続財産が自宅不動産のみである場合,配偶者以外の相続人が自宅不動産を売却して売却代金を相続分とおりに分配しようと主張してしまった場合,残された配偶者が一定の金銭を支払って代償分割することができれば問題ありませんが,支払う金銭がない場合は,今後自宅に住み続けることができなくなってしまいます。また,遺産分割で配偶者が自宅不動産の所有権を取得する場合,自宅不動産の評価額が高額となるため,今後の生活費となる預金等の相続財産を取得できなくなり,その後の生活に支障が生じる可能性もあります。

上記のように,高齢の配偶者が自宅に住めなくなってしまう可能性に備え,配偶者の短期的な居住権と長期的な居住権を保護しようという改正案が出ています。

短期居住権とは,被相続人が亡くなってから遺産分割が終了するまでの短期間居住する権利のことであり,改正法では,配偶者に無条件に認めることとされています。

もう一つの長期居住権とは,遺産分割終了後も長期にわたって住み続ける権利のことであり,遺言若しくは遺産分割協議で合意があった場合は,遺産分割によって自宅不動産が他の相続人の所有になったとしても,配偶者に長期居住権を認め,この長期居住権を金銭的価値に換算して,配偶者の相続分から控除する等の取扱いを行うこととなっています。

配偶者と子供とが相続人であって,自宅不動産と預金のみが相続財産の場合,今後も自宅に住み続けたいと考える配偶者に全ての財産をのこすための遺産分割を行う場合が多いと思いますが,後妻と前妻の子供等の関係の場合は上記の問題が生じる可能性がないとはいえないかも知れません。

投稿者: 吉川綜合法律事務所